数年前、新橋駅のSL広場を通りかかると、真昼間からスーツ姿の若い男女がアンケート用紙を片手にうろうろしていました。
「老後に関するアンケートにご協力いただけませんか?謝礼もございます。」
という具合です。
何かの勧誘とはわかっていましたが、あまりにもウヨウヨと人数も多く気になっていて、ある日、アンケートにひっかかってみることにしました。
女性相手では押しに負ける恐れもあり・・、ツーブロックにパリっとスーツが似合う(ようで似合わない)体育会系の20代後半ぐらいの男性に「いいですよ~」と返事しました。
アンケートに協力すれば1000円の商品券が謝礼というのもちょっと期待です。
今回は、そんなアンケートと1000円の商品券の行方、という他愛もない経験です。新橋駅という場所と属性
新橋駅のSL広場は「オヤジの聖地」です。
テレビ番組で酔っ払ったオジサンたちがよく該当インタビューを受けているのがSL広場です。
真昼間もサラリーマン率が高く、働く女性も行き来しています。
そんななか「アンケート」と称して声を掛けるのは、基本、キャッチセールスです。
「サラリーマン」という属性が多い新橋でアミを張り「老後」をテーマにキャッチセールスするのは、いったい何なのか?と興味を持ちました。
不動産会社の営業スタッフたちだった
まずは「老後に関する意識調査」ということで、アンケート用紙に記入してくれと言います。
最初、彼は「不動産会社の営業です」とは名乗りませんでした。
ざっと質問に目を通したとき、一番下に「ワンルームマンション投資に興味あるか」という質問があり、察しがつきました。
アンケート用紙の最初の驚くべき質問
さて、アンケートの最初の質問はインパクトがありました。
Q1:「老後の生活費に平均30万円/月が必要と言われますが、あなたは老後に不安がありますか?」
回答:はい・いいえ
誘導尋問っぽい質問です。
僕がその最初の質問に「はい」か「いいえ」を選んで〇をする時、そのツーブロックさんが身を乗り出しました。
視界のはしっこには多分2mmしかないスキン地の頭がぐっと入ってきました。
何しろ僕がワンルームマンション投資に契約をすれば、彼にコミッションが沢山入ります。
そんな成否を占う大事な設問だからでしょう。
僕は動じることもなく回答をしました。
僕の回答をみてがっかりしょげたツーブロックさん
僕が〇をしたのは、「いいえ」です。
つまり「老後の不安はありません」という回答です。
リタイア後の収支シュミレーションしていたので不安はありません。
意表をつかれたのか「本当ですか~」と彼は驚きをストレートに出してきました。
きっと「不安だ」に〇があれば、彼の決めゼリフが言えたからです。
「不安な老後に向けて、いまから不動産投資(ワンルームマンション)をしましょう」
そんな決めゼリフを言えなくなってしまった彼をみると、
「ポケモン、ゲットだぜ!」と言えなくなったサトシほどひ弱ではなく、
「実に興味深い!」と言えないガリレオの福山雅治ほどインテリ感もなく、
「おまえは既に死んでいる」といえないケンシロウあたりがぴったりでした・・。
ガタイの良い体育会系のツーブロックさんですから。
アンケートの設問の続き
ショックでうなだれる彼をよそに、僕はその後の質問「年金の受給予定額」、「会社の業種・規模・年商」、「勤続年数」、「家族構成」、「年収」、「貯蓄」といった項目の選択肢に〇をしていきました。質問の意図は、ワンルームマンションのローンを組めるか否かの社会的属性を把握すること、家族構成に妻がいればその妻の了解を取るための攻略がいること、年収や貯蓄は購入予算をみるものでしょう。
そして最後の質問が「ワンルームマンション投資に興味があるか?」で(ある・なし)となります。
セールスを受ける気はありませんが、興味なしもかわいそうなので「ある」に〇をしてあげました。
1000円の商品券を貰って営業トークを聞いてみた
答えにくいアンケートに全部回答したので、お約束通り1000円の商品券を貰いました。そのときに彼は、ざっと営業トークとして、
・「2000万円のワンルームマンションを全額ローンで購入するので手元の資金がなくても始められる。」
・「マンションを家賃7万円で貸し出せば利益がでますし節税にもなります。」
・「ローンを払い終わる時にはマンションは自分のもの。」
・「家賃保証もあるから心配ありません。」
・「生命保険の代わりにもなり遺産相続にも有利です。」といったことでした。
ですが、僕に対しては「でも、老後に不安はないのですよね?投資してもおいても損はないと思いますが・・」と弱気なツーブロックさんです。
ワンルームマンション投資の事業性
不動産投資は僕もやっているので内容はわかっています。
営業トークに隠された沢山の疑問について困らせない程度に逆質問をしました。
・「表面利回り4%程度だが、投資ローンになるので銀行のローンの金利、取得税や固定資産税、火災保険に維持管理費、修繕費・・実質利回りはマイナスじゃない?」
・「そもそも空室率や家賃下落率はどこまで見積もってるの?」
・「サブリースの契約見直しとか途中の打ち切りがない保証は?」
・「銀行ローンも繰上返済ができないとかローン先を変更できないといった覚書とか強制させられないよね?銀行のことは知らないじゃ甘すぎるよね?」
イチ営業マンの彼の狙いは、僕を上司に紹介すること。きっとノルマもあるのでしょう。
ですが僕には旨味の無いビジネス。そもそも「おいしいビジネスが向こうからはやってこない」が僕の信条です。
彼に「上の人に僕をつないでも、きっと上の人が回答しずらい質問ばかりせざるを得ないよ。君のプラスにならないどころか面倒な奴を連れてきた」と𠮟られちゃうかも。」と伝えました。
ツーブロックさんもピンと来たのか、素直に「確かにおっしゃる通りですね」となり、会話はがらっと彼の身の上話に。
不動産営業のキャッチセール
若い頃はこうやって初対面の人の懐に飛び込んで営業する経験だって本人のためになります。
ですが、自分が惚れ込む商品を売るのと、お金のために売るのでは、自分に残るものも違ってきますよね。
案外と外見がワイルドなわりに、素直で打たれ弱いツーブロックさん。
彼を元気づけるために「なんでこの仕事をしているの」「キャッチでどれぐらいの人が次の段階に行くの」「契約まで至った客はどれぐらいいる」「どんな人たち」「成約したらいくらもらうの」・・。
からはじまり「いや、君は頑張ってるね。大変だね。」となりました。
素直でいい奴です。
ツーブロックさんに何気に残したこと
不動産の仲介を選ぶとき、僕だったら、人間として信頼できるかを基準にする、ということもそれとなく話しました。
信頼をどこで推し量るかは、直感かもしれませんが、あえて言えば、不動産知識があり、売るものにプライドをもち、それゆえ売る時に嘘を言わない、という人間性だと思います。
ツーブロックさんを持ちあげながらも、(2㎜の刈り上げが10㎜に伸びてもわからないぐらいに)本気で不動産を勉強して、自分の好きな街の不動産屋で働かせてもらい、その地域の良さごとお客さんに売りこめば、きっと成績があがるのに、との思いもちらちらと世間話をしました。
商品券1000円の行方
僕としてはキャッチセールスの裏事情がわかって楽しい時間になりました。
1000円の商品券を手に「どうぞ商品券です。お好きにお使いください。あのお店でも買い取ってくれるので現金化できますよ。」
とツーブロックさんが親切に新橋にある沢山の格安チケットセンターの1つを指さしました。
僕は「好きに使っていいのね!じゃあ、これでコーヒーでも飲んで。」と商品券をツーブロックさんにあげました。
そんな勿体ないと引き下がる彼に、
「これをあげても、僕は一銭も身銭を切っていないから損はないよ。タダでワンルームマンション営業の裏事情も聞けて、名刺も貰った」と返答したら彼は渾身の握手までくれました・・。
リタイアをして久しぶりにSL広場を通った先日、ふと思い出した出来事です。
0 件のコメント:
コメントを投稿