FIREを急ぐ人は「会社員を長くやったからといって何のメリットも無い」と思ってる人が多いようです。
ですが「あえて会社員だから身につけられるちょっと特殊な能力」というものがあります。
それは「信頼やら騙し合い」もあるような会社という世界で、それこそ20年とか意識して過ごさないと体得できない、でも普遍的に使える能力です。
その能力とは 洞察力 のことです。
洞察力とは「目に見えるものを手掛かりに、その裏側にある目に見えないものまでを見透かしていく力」のことで、本質を捉える能力でもあります。
今日は、ちょっと理由があり、そんな「洞察力」について書いてみます。
洞察力の伝道師との出会い
会社っていろいろな特技を持った人に出会えます。
僕が30歳の頃、真の「洞察力」を持った人と接するきっかけがありました。
当時、業務知識や体力、実績もそこそこあった僕は「どこからでもかかってこいやー」といわんばかりのいきっていた小僧だったと、恥ずかしながら、思います。
ただ、実際の人間としての底の浅さといえば、先日食べたスーパーの激安ちらし寿司ぐらい「上げ底」です。
そんな怖いものがなかった頃に出会ったのが「カミソリ部長」です。
その人物は温厚で口数が少ないおじさんです。でも、ビジネスの話をすると日本刀のように洞察力がキレッキレで、威圧感もオーラもあふれ出てくるおじさんでした。
ある日、僕が作成したパワポ資料を説明すると、眼鏡を少しずらし、その隙間から直接僕を直視しながら本質に迫る質問を、想定外の角度から鋭く投げてきます。
ぐいぐいと問題の本質を露わにするだけじゃなく、僕の浅い考え、心の迷いや混乱まで、あっという間に見抜きます。
論理的な詰めの甘さや、世間で使われるデータなどと比較した違いを指摘する程度の人は10人いれば2、3名はいるでしょう。
でもカミソリ部長は、僕の「なりで片付けた論理」や「論理に隠れた自分の適当な考えや甘さ、なめた心」を全て見透かします。
知識で詰め寄られるものじゃ無いのです。得体の知れない直感というナイフが喉元に迫ってくる感覚です。
うわぁ、そこ、痛・・て感じる弱点をぐいぐい切り込まれ、僕は「参りました・・」となりました。
そんな忍術が使える人は、僕の生涯、何千人と人に会った中でせいぜい1、2名しかいませんでした。
ということで僕もそのおじさんに「弟子入り」をしたのです。おじさんといっても、40代後半だったと思います。今から考えるとまだまだばりばりの若い人ですね。
洞察力という能力のポジショニング
ちなみに、門下としていろいろ教わったのですが、洞察力を得るには、スキルとセンスが必要でした。知識じゃないのです。
その教えでは、洞察力は3段構成の最上段に位置する、こんな感じです。
第1段目-テクニカルスキル
まず第1段目にあるのが「テクニカル知識」です。
それは、実地や独学、スクールで勉強すれば数年で習得できるようなものです。
例えば投資でいえば、金融知識や商品知識、ファイナンス知識やトレーディングのスキルなど、辛抱強く勉強すればある程度は得られるといったものです。
僕は当時、この世界で知識や経験を得ていてイキがっていたのでしょう。たかがテクニカルな実務力だけがあったところで、そのカミソリ部長からしたら「で、それで何か?」って感じだったのでしょう。恥ずかしい限りです。
第2段目-対人スキル
そして第2段になるのが「対人スキル」です。
組織のなかで10年20年と組織行動を積み重ねていけば、組織のなかでの人の動かし方などが習得できます。
〇〇については、どこの組織の誰に聞けば良い、こう依頼すれば協力してくれる、こう進めれば能力を発揮してくれる・・といった対人関係、対組織のスキルです。
テクニカル知識も対人スキルも、知識や経験、時間を費やせばある程度は得られます。
円滑なコミュニケーションを実践し、協力者を巻き込んでいく、組織行動では欠かせないスキルです。
第3段目-洞察力(コンセプチャルスキル)
そして第3段目がコンセプチャルスキルです。
このコンセプチャルスキルは知識や経験だけじゃダメな、直感やら五感も磨き上げないといけない感じです。
初めて接するモノゴトや領域でも、そこを司っている「大枠(フレーム)」や「力学」を瞬時に理解し「物事の本質」「問題の本質」をビシって捉えていけるような普遍的な能力です。
それは知識といったものとは少し違います。経験で培えるともいえない、なんとも実態不明な能力です。
ただ、違う世界でも通用する、知識や経験に依存しない、本質を見抜く力というものです。
いま僕が、リタイア生活という違う世界に持ち越しができているサラリーマン時代の能力は、この少しばかりの洞察力ぐらいかもしれません。
自分を救ってくれる「リスク検知力」や「適応力」といったレーダーのような機能をしてくれます。
30歳の「テクニカルの1戦闘員」だった僕が、そんな3層ミルフィーユなんて奥行きも味わいも知らない浅い人間ゆえ、理解しようがないものでした。
で、今の僕はしっかり理解しているか??それもわかりません。
50代に入って、アーリーリタイアをしても良かったのに、あえて仕事を選んでしまった時、つまりお金で仕事をすることから脱したとき、少しばかり洞察力が使えるようになった気もします。
例えばこんな出来事があったりします。
洞察力が必要だった仕事
僕は現役時代、グループ企業や買収候補の会社を訪問し、その経営や組織の状態を見極めるような仕事をしていた時がありました。
経営管理であったりデューデリジェンスといったものです。
その時は最も洞察力を使った時です。
面会相手は初対面も多く、日本人の僕がアメリカや欧州の会社をまわってヒアリングする時は、概して、相手はこっちを超なめてきます。
「日本人の小僧が、現場もサービスも知らないで、なにがわかる!いっちょ丸め込んでやろう」といった先方の意図が透けて見えてきます。
僕が面会する現場統括の百戦錬磨っぽいマネジャーから、一癖も二癖もありそうな組織長、掴みどころが無い謎めいた創業者などなど、次々に会います。
彼らと話しながら、その組織や会社のリスクや問題点、強味や魅力を理解し上層部に報告する仕事でした。
Case「営業部門の売上倍増に向けた課題」の議論
いろいろ特殊なお題がありすぎたので、例えば、よく世間であるような「営業部門の売上倍増に向けた課題」がテーマだとします。
先方が報告書を準備し、5つほど、課題が羅列されていたとしましょう。
きっとこんな感じです。
売上倍増には・・・、
①営業マンのモチベーションを維持するインセンティブ(成功報酬)が少ない、
②ブランド力が低い(知名度が低い)
③値段が高い
④サービスの競争力が弱い
この5行の問題指摘を受け、そこに書かれていない本質を見極めるのが僕の仕事です。
具体的には、
A. 売れていない問題の本質は何か
B. 再生の道筋は何か
C. 加えて、その組織をどう手なづければ良いか
です。
なお、Cは肯定的な意図のものであって、戦闘的なものではありません。「飼い犬のポチとなって家族の一員として仲良くやれるか」という視点で見るのです。
ポチは面倒な奴なので、「おちゅーるが欲しい」と願っている隠れた本音や意図を見抜くのが僕の役割で、決して、資料を真に受け日本側に伝書鳩のように報告していては「ダメ」なのです。
ぱっと見すごい会社でも、イケてない部分、腐った部分っていうのが組織には多々あります。5感を使って、洞察力で本質を見極めないといけません。
腐っているかを理解する方法
5つの課題の、例えば1番上から順番に、問題の本質をこんな感じで露わにします。
1つ目の「①営業マンのモチベーションを維持するインセンティブ(成功報酬)が少ない」というのは、言い換えると「会社の金払いが悪いから営業マンのやる気が削がれている」といってます。
つまりそんな「売る気にならないから売らない」的な「上から目線の営業」で、「売るものへの愛情が欠如し」、「売る行為への誠実さ」や「顧客満足させるマインド」って匂いも全然しないのです。
「金を積んだら売る」っていう、金という私欲の匂いがするだけで、社会貢献や愛情やプライドといった金じゃ作れない無い大切なモノがどこにあるのか?って感じです。
そんな私利私欲、組織の腐りは、どこから来るのか?どこまで広がっているのか?もう止められないのか?を探っていきます。
事実確認をしながら「最初の1行って、誰が言ってるの?」「その人はどれほど重要な立場か?」など淡々と聞きだします。
元凶が、営業組織のマネジメントか、トップの売り子のおごりか、そもそも資料作成者はどうしてその人から情報を聞くのか、なぜ1番上にかくのか、そんな影響力があるのか、などなど、裏側にある人間模様も想像しながら、淡々と質問によって露わにしていくのです。
そして「じゃあ給与を2倍にしたら売上2倍にできるのか?」「そうならなかったら誰が責任を取れるのか?」。。という本気度も試したりします。
この場合、本心が「つべこべ言わずにもっと俺たちの給与をあげよ」と言うメッセージですから、こっちは「売るサービスに誇りを持ち、顧客を幸せにすることが会社の必達事項だ」と逆提起をしながら、どう組織改革すればよいかを考え、報告するのです。
書かれていないことこそコントロールする源泉
1行に書かれていることだけで、その裏にある「書かれていないこと」を芋づる式に露わにしていくこと、「裏事情を露わにするのこと」が洞察力です。
これって、そもそも人に騙されず、本当の付き合いをしていく上で大事なスキルでもあります。
そういった本質を捉える大事さは、仕事だけでなくセミリタイア生活でも同じです。
投資話がでてきたとしても、投資の本質が儲かるものか、リスクがないかといった本質を見極めることができます。
終わりに
ちょっと端折りすぎですね。
要は目に見えるものを手掛かりに、その裏側にある「目に見えないもの」を洞察する力で、資本主義のルールで生きる上で、結構大事な能力だと思います。
そんな「本質を見抜く力」は、実は、最もコスパやタイパのよい生き方につながるとも思います。
短時間で手に入れることができないですし、何度も場を経験し、観察し、洞察し、道理を理解しないと、得るのは難しいと思う能力です。
会社で生きていくと、こうした洞察力を身につける場面も多くあります。
でもFIREをしてしまうと、こうした本質を見極める能力って、なかなか身につける場面が少ないですし、できたとしても、自分の資産を奪われるとか、勉強代という犠牲が伴うかもしれません。
そんなことを、カミソリ部長と共に思い出したのは、惜しくも、訃報を聞いたことです。
カミソリ部長のような日本刀にはなってないかもしれません。でも、カミソリ部長から受け継いだものが、僕の血となり肉となって、今の生活でも役立っています。
そんなことを感謝し、伝承を大事にしていく想いとともに、心より弔いたく存じます。
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