政府による増税の網はとにかく抜かりがありません。
「デフレからの完全脱却と経済の新たなステージへの移行」との名目で社会構造の変化に対応した税制改正(改悪)を進めています。
その1つがリタイア資金として重要な「退職金」で、税金のかからない「非課税枠」の大きさを狭めることが狙われています。
退職金は「老後の生活保障」といった側面があり税制優遇されてきたものですが、少なからず枠を取り払う方向で検討が進んでいます。
既に2022年1月1日以降の退職金に一部改悪があり、いまも更なるデグレードが計画されています(現政権の不人気で2024年に具体化する話は流れましたが)。
今日はこうした狙われる退職金について綴ります。
2021年の税制改正
僕がアーリーリタイアを決めたとき、ちょうど「2021年の税制改正」として退職金にかかる税金が議論されていて、そして一部改悪されました。
2022年1月1日以降に支給される退職金を対象に「短期退職手当等」が導入されたのです。
これは、役員以外の勤続年数5年以下の従業員に支給される退職金を対象に、退職所得金額が「300万円を超える部分」については「2分の1課税を適用しない(=退職所得が高めに算定されるので課税対象額が増える)」といった内容です。
つまりは「短期の勤務で多くの退職金を受領する人に不利」なる制度です。
僕の場合は勤続年数が長いのでこの点にはひっかからず、幸運にも、従来通りの退職金優遇制度を受けれました。
それでも、退職金を一時所得と年金形式で分割にして処理をしましたがやはり課税はされました。
2024年の税制改正では退職金課税は見送り
2023年6月に発表された「骨太の方針」では「退職金課税の見直し」が明記されました。
ですが結局、2024年度の税制改正に盛り込まず、見送りが決定されています。
この見直しは「同じ会社に長く勤めるほど退職金への課税が抑えられ有利になる」といった終身雇用システムを擁護する制度にメスを入れるものです。
なぜならこの制度が「労働者の転職意欲を阻害し成長産業への雇用シフトや賃金上昇にマイナス影響」との観点でそれを取り払おうという意図です。
長年勤め続けた中高年にとって、老後や早期リタイア後の資産計画に大きな影響を与える「改悪」になりえます。
ちなみに現行制度での控除額は、20年以下は「40万円x勤続年数」が、20年超は「800万+70万x(勤続年数-20年)」と、つまり20年を超えると40万円から70万/年の控除に増える長期間労働後の退職に対する優遇をしています。
この20年越えの部分の優遇が狙われているようです。
その他、議論の方向としては退職金の受給形式(一時金と年金形式)での税負担の差の見直しや、自己都合での退職を不利にするなど、いろいろな角度で議論されています。
リタイア計画民としてのリスク管理
(アーリー)リタイア時に退職金の受給を受ける方は、退職時点での勤続年数が何年であるかも注意しながら、政府(内閣府の発表資料等)をウオッチしておくこともお勧めです。
場合によっては勤続年数の算定となる基準日を1日でも早く退職することで税金も変わる場合もあるわけです。
終わりに
僕は退職金増税の影響を受けずに乗り切りましたが、リタイア生活での課税懸念はまだまだ続いています。
金融所得課税の見直しで、既に金融所得を総合課税方式となりました。これがさらに累進課税の対象とする方法や、金融所得は申告分離課税での税率引き上げというのも今後はありえます。
政府としては新NSIAなどで投資をプロモートしながら一方で課税強化の施策という自己矛盾にもなるので、おそらく税収を得るうえで狙い易いのは「資産の取得や保有」よりも「移転」になってくると予感します。
資産の移転で代表的なものは相続税です。
個人的には、現役時代やシニア時代に課税されて嫌な思いをするよりは、まだ相続税において課税が大きくなるのは容認できる点はあります。
老後を乗り切って天命を全うした資産継承(相続税)での課税となれば、あとは「若い世代を含めた富の再分配として有効に使われれば良い」と納得し易いからです。
ただこれも「税金が正しく使われる」との信頼が無ければ「止めてくれ!」と言いたくはなります。
いずれにしても「経済情勢や社会構造の変化へ追従するなかでの税制改悪」に警戒するよう注意喚起をしたかった次第です。
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