平均寿命が長くなることは表面的には喜ばしいことです。
ですが「長くなった老後年数」を巡ってある競争が繰り広げられています。
それは「老後期間を働かせたい日本政府」と「頑として老後など働きたくないFIRE志向者」というつばぜり合いです。
政府からみると、老後世代は人口増加中の成長市場で、定年を60歳、65歳、更には70歳と引き上げることで(旧来は)老後という年齢も働くことが当たり前の社会を作ろうとしています。
そこで、日本政府が過去数十年、労働人口を増やすためのターゲットセグメントとした女性、外国人等への制度導入を振り返りながら、今回、第2回のFIREの未来予想図は「老後争奪戦」を綴りたいと思います。
政府が労働人口を増やしたい3つの理由
日本政府が労働人口を増やしたい理由というのは、基本、経済的・社会的な課題に対応するためです。
それら問題のなかから最大のつをあげれば、①経済成長の維持、②社会保障制度の維持、③財政の健全化、となります。
経済成長の維持
労働力人口は経済成長の重要な要素です。
労働者が減少すると生産性や国内総生産(GDP)が低下し、経済全体が停滞するリスクがあるからです。
特に日本は人口減少が進む中で「生産年齢人口(15歳~64歳)」の割合が減少しており、これが経済の縮小圧力となっています。
国立社会保障・人口問題研究所の予測では2060年までに日本の労働力人口は現在の約7,500万人から4,000万人に減少する見込みです。
政府は労働人口を増やすことで経済活動を活性化し企業の競争力を維持発展させたいと思っています。
社会保障制度の維持
高齢化が進む日本では、社会保障費(年金、医療、介護)が年々増加しています。
これを支えるのは現役世代の労働者からの税金や保険料です。
高齢者1人を支える現役世代の割合は、1970年には約10人に1人だったのが、2020年には約2人に1人に減少しています。
この「支え手不足」を補うために労働人口の維持が必要です。
もし労働人口が減少すれば、税収や社会保険料が減り高齢者を支える財源が不足するためです。
財政の健全化
日本の政府債務はGDPの約2倍に達し、先進国の中でも最悪の水準にあります。
労働人口の減少は、税収減少を招き、政府の財政悪化を加速させます。
働く人を増やし、所得税や消費税などの税収を確保することで、政府債務の安定的な管理が可能になります。
財政健全化のためには、労働人口の維持・拡大が不可欠です。
老後争奪戦と過去の戦歴
高齢化社会の到来は40年前の出生率からわかっていた事実であって、これまでも労働人口を増やすために日本政府は幾つもの施策を画策実行してきました。
僕が働きだして以降にひしひしと感じた労働人口の争奪戦3バトルを絞ります。
男女雇用機会均等法
男女雇用機会均等法は、1985年に制定され、企業の募集や採用、配置などに関する男女間の均等な取り扱いを「努力義務」として始まりました。
その後、何度か改正され、女性であることを理由とする差別的扱いの禁止や、男女共に性別を理由とした差別的扱いが禁止されています。
その成果があって今は企業における女性管理職の比率を企業の目標値としていたり、上場企業においても女性社長も誕生しています。
働く女性のピカピカなロールモデルが働く女性を増やし、政府の戦術が勝利を導いて労働人口の増加となりました。
育児・介護休業法(男性の育児参加)
育児・介護休業法は、男女問わず育児や介護と仕事を両立しやすい環境を整えようとするものです。これは表向きの理由で政府の本音は「男性の育児参加を促進することで女性の労働力をさらに引き出す」というものでした。つまり男女雇用機会均等法の続編として投入した戦術です。
ですがこのバトルで政府は引き分けとなっています。
なぜならこれまで働くことが良しとする洗脳を受けてきた男性が育児休業等によって覚醒し、家庭に幸福を見い出したり、空き時間に投資をして成功し、終身的労働意欲を無くしてFIREやセミリタイア志向を助長してしまったからです。
ただ一方で、女性の出産以降の継続就業率が向上している(2022年には出産後も働き続ける女性の割合が約8割に達す)ので労働人口の維持には役立っていることも事実です。
それゆえバトルは引き分けです。
外国人材受け入れ(技能実習制度や特定技能制度)
外国人材受け入れは、海外からの労働者を受け入れて労働人口を増やすかなり新手の技です。当初は発展途上国の労働者に技能を習得してもらう名目で、建設、農業、介護などの分野に労働者を受け入れました。
それが特定技能制度として日本語能力や技能試験をクリアすれば、長期間の滞在や家族帯同も可能という人口増も狙う荒技に打って出ました。
このバトルは政府の敗北となりました。
コロナ禍で制度が行き詰まり新規受け入れがストップしたり、また昨今は来日しても帰国できなくなった労働者がお金を得るために犯罪に手を染めるということも報道されるなかで、世間での風当たりが強くなってしまったからです。
しかも外国人労働者の一部はFIRE民(非課税世帯)が受けるものと同等の恩恵を受けたりなど実質的にはFIRE人口が微増してしまったインパクトになっているからです。
終わりに
昨今の103万円の壁も主婦層の労働人口(労働時間)を増やす目的です。
平均寿命が伸びるなかで政府は定年というゴールポストを動かし、それを確固たるものにするため年金支給を先送りや「高齢者の定義」も変えようとしています。
今後まさに成長市場である「老齢期人口」がバトルフィールドとなるだろう、というのが僕の未来予想図です。
なお、賢い民は政府の意図を見破り「定年まで待たずに辞めてやる」とFIRE民たる武装を取り反駁するのです。
政府が民間人の老後を奪うことへの抵抗として、やはりFIREの基本理念である「経済的自立」や「早期リタイア」は有効で「自分の身は自分で守る」というゲリラ戦でもあります。
政府に負けないFIRE民として一致団結しましょう!
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